河川再生会議

2013年9月11日から3日間、ウィーンで開催された「第5回ヨーロッパ河川再生会議」の模様を順次お伝えします。

 

Mr. Janez Potocnik (ECコミッショナー)基調講演


皆さんにまずはちょっと変な質問をしたいと思います。

例えば、セーヌ川の無いパリを考えた事はありますか? リスボンはタホ川が干上がってしまったらどうなってしまうのか? ドナウ川が無かったらオーストリアの歴史はどのように変わっていたことでしょう。もちろんこれはSF的な想定ではありますが、私は我が祖国スロベニアをソチャ川無しに想像する事はできません。

 

ヨーロッパは水資源に恵まれています。しかし、その資源を当たり前とみなしていてはいけません。ですから、我々の任務として「水」は常に最重要課題なのです。

 

昨年11月に打ち出した水資源ブループリント(計画)には、ヨーロッパの水資源保全のための新たな政策が盛り込まれています。これは、本当に多くの方々の協力と努力の結晶です。すべてのEU参加国、水サービスセクター、水利用産業、各地元のコミュニティ、NGO、ヨーロッパのパートナーなど、そう、もちろん皆さんもすべてが関わってくださっているのです。

 

この水資源ブループリントの主なメッセージは、「ヨーロッパ全土で良い状態の水資源を再生するというEUのゴールを達成するためには、我々の努力をさらに加速させる計画を立てねばいけない」というものです。しかしながら、EU加盟国における100以上の河川集水域行動計画の進展を評価した結果、2015年までにEU全体の47%の集水域でこの目標に到達できないことが明らかになりました。およそ半分が到達できないのです。

 

このまま行けば、今後ますます水、エネルギー、食料に対する需要が高まり、おまけに気候変動が加速してプレッシャーが高まる中で、我々はヨーロッパの生態系機能を維持、再生していかなければならず、とてつもなく大きな挑戦に挑まなければなりません。

 

ただ、幸運なことに、私たちはゼロからの出発ではありません。ライフプログラムに支援された再生事業の結果は、我々が「ブループリント」を起草することに繋がり、それが今後の実際の行動計画にも反映されました。

今日はそのうちの3点を皆様に紹介したいと思います。

 

まず第一に、我々は確実にチームワークを高めていきます。国境を超えて水資源の国際的な連携をつくり、ピアレビューを行いお互いの経験を共有するのです。何事もチームで考えていけば、我々は絶対的により強くなれます。

 

2番目に、「ブループリント」は知識をベースとする水政策に重点を置きます。我々は各国のデータベースへのリンクを改善するため、今後も引き続きヨーロッパの水政策情報システムの開発を提案していきます。これにより、意思決定者がより素早く重要な情報にアクセスできるようにするのです。

 

また、欧州委員会は、水資源経済モデルは水資源管理者が集水域管理におけるさまざまな対策の費用対効果を調査するのに役立つと考えています。我々は水管理者たちの仕事を助けるためにこのツールの性能をさらに高めることを目指しています。

 

3番目に、良い水管理のためには「質」と「量」は分離して考えてはいけないという点があります。水管理者はどれだけの水が割当られる可能性があるか、つまり「量」を知っていなければならず、同時に、自然、すなわち生態系の質も考えに入れなければならないのです。

 

ここにおける問題は、我々はまだ全ヨーロッパを網羅する水系の絵を持っていないことです。ですから、ヨーロッパ全ての環境省が協力して、欠けている部分を埋める努力をし、水がどこから来るのかを全て解明しなければなりません。

 

そして、我々が必ず達成すべきは、それぞれの集水域での水のバランスが持続可能な限界の枠内にしっかりと収まることです。

 

「ブループリント」の中でも特にアクションプランが提案されているのは、イノベーションの分野です。イノベーションはより良い公共政策をつくる上で重要ですが、同時に民間の会社が市場に向けてアイデアを生み出すことを促します。市場は常に競争の場であって欲しいですし、現在のところこの分野の産業は順調に成長しており、2030年までにその市場規模が2倍になると予想されています。これは欧州委員会が「ヨーロッパ水イノベーションパートナーシップ」を設立した理由の一つでもあります。一つのアクショングループがこのパートナーシップのもとに創設されましたが、このグループは水資源再生事業に直接関わります。彼らの目的は、自然の生態系の恩恵を調査して金額に換算する確かな技術を開発することにあります。しかし、このような手法だけでは実質的な効果は出せません。我々は他の事ももっとしっかりとやらねばならない、すなわち、水政策の目標を他の政策とさらに統合させて進めなければならないのです。

 

洪水リスク管理の統合は、我々の次なる挑戦です。洪水による犠牲者や経済的損害を減らすことが主な目的です。洪水リスク管理計画は、我々が定めた「水枠組指令」によって2015年までに策定することが求められています。これらの計画の中心的考え方はグリーンインフラストラクチャーで、自然の持つ保水力が特に重要視されています。河川再生は多くの場合、このグリーンインフラストラクチャーの役割を果たします。「ブループリント」では、このグリーンインフラのガイダンスの開発や、氾濫源、湿地、バファーゾーン、土堤などを的確に確認することが提案されており、これらがグリーンインフラの中心となると考えています。またこの点は、我々の「グリーンインフラの新たな戦略」の中でも挙げています。

 

我々は最近、集水域政策の改革案に合意し、その主流となる考えを実施する機会を数々提供することになりますが、我々としては、加盟国が今後の河川開発計画を必ずこれらに準拠するようにしなければならないと考えています。

 

EUの「結束/構造ファンド」を用いてグリーンインフラを民営化することによって同様の進展を見る可能性もあります。それはヨーロッパの投資銀行からのローンによるものです。委員会が特に注目しているのは、今後7年間で融資の優先順位を明確にする加盟国間交渉のパートナーシップ合意にグリーンインフラが含まれていることです。これには国際的な開発と地域的結束ファンドの両方が含まれているからです。

 

このような「統合」には研究開発ファンドも含まれねばなりません。加盟国は、2015年からの第2期集水域管理計画の準備として「水枠組指令」が要求する技術的なアセスメントをすでに終了しています。2011年以降、ヨーロッパの水枠組指令プログラムは、効果的な集水域管理を目指して40か国で25のパートナーとともに河川再生プロジェクトを支援してきました。「水枠組指令」の2サイクル目の実施にあたり全ての加盟国に恩恵をもたらすことができるツールを提供するためです。

 

皆さん。この会議は、「河川再生とは皆で力を合わせて行う冒険である」と教えてくれます。これからヨーロッパ中にこの会議の内容が広がります。昨夜の「第一回河川再生賞」の最終選考に残った4チームはその素晴らしい事例です。彼らはさまざまな川で幅広いプロジェクトによって生態系悪化の原因やそれに対処するさまざまな技術を実証してきました。必ずしも成功したことばかりではなく、成果もいろいろです。

 

しかしながら、ヨーロッパの河川再生は今や局地的、パイロット的な段階は終わり、ヨーロッパ中の川で広く再生を実施する段階に到達しました。河川再生は今もヨーロッパ北部や西部でさかんですが、実はもうすでに我々はある意味の潮時に達しているのです。河川再生は単にヨーロッパの重要な生態系の保全や河川が提供する重要な生態系の機能を確実なものにするだけでなく、経済発展や人々の生活の質の向上にも貢献しているのです。

 

多くの人が経済と環境理論は両立しないと思っています。もしそのような人たちがこの会議に出れば、その考えが間違っていることに必ず気が付きます。しかしながら、どこまで行っても懐疑的な人は必ずいます。ですから、私たちの使命は川の生態系が我々に提供してくれるサービスについて、広く世の中の認識を高めることです。それらは例えば、水、食料、水の浄化、洪水の緩和、浸食対応、リクリエーションそして景観などです。残念なことに、これらは一般的には見過ごされています。

 

というのも、我々の経済、財政システムはこのような自然資源の本当の価値を計算に入れることができないからです。だからこそ、私たちが河川再生の費用対効果アセスメントを改善することはとても重要です。我々は川の生態系が社会的、経済的な側面でいかに恩恵をもたらしてくれているかを十分に認識しなければなりません。

 

皆さん。我々の河川の保護は、我々の社会にとっては健全な経済と環境に対する投資です。我々が議論しているのは単に環境保護だけでもなく経済発展だけでもありません。我々はその両方に対処しようとしているのであり、両方に対処しなければならないのです。これが私がこの会議で皆さんに伝えたかったメッセージです。皆さん、どうかこの会議を最大限有意義なものにしてください。ありがとうございました。

 

通訳・翻訳/青山己織  校正/保屋野初子

 

<お知らせ>

愛知県長良川河口堰最適運用検討委員会がパンフレットを発行しました。

 


 
 
 
 
 
『166 キロの清流を取り戻すために まずは長良川河口堰の「プチ開門」を実現しましょう

 http://www.pref.aichi.jp/soshiki/tochimizu/nagara-sasshi.html 愛知県のHPに内容が掲載されています
★冊子を希望する場合は上記のアドレスから

申込が可能です。

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会報Vol.10をHPに掲載しましたのでご覧下さい。

 

オーストリアの統合治水、現場報告

ヨーロッパ河川再生会議報告