マチリヤダム Matilija dam

マチリヤダム生態系再生実現可能性調査:要約:日本語版

原文はVentura County Watershed Protection Districtのホームページの「Matilija Dam Ecosystem Restoration Project」

(http://www.matilijadam.org/index.htm)中に公開

マチリヤダム生態系再生実現可能性調査は、アメリカ国内で最大のダム撤去研究のひとつであり、アメリカ陸軍工兵隊がミシシッピ川西部で手がけた最大の生態系再生研究のひとつでもある。

このレポートはアメリカ陸軍工兵隊、ロサンゼルス地区、ベンチュラ郡流域保護局(VCWPD)、の尽力および協力のもと、代替案的な分析から得られた事実や推奨すべきプランの選定などについて報告している。

このレポート作成には、多くの連邦、州、地方政府機関、また環境資源局、利益団体やその他の関係者の多大なる貢献があった。

この研究はベンチュラ川、およびマチリヤダム近くにあるマチリヤクリークに生息する固有魚および野生生物(連邦絶滅危惧種リストに載るサザンスチールヘッドも含まれる)のためのベンチュラ川流域生態系再生と、ベンチュラ川の砂を海岸に補充するためのベンチュラ川の自然水文学や堆積物の移動の改善に焦点を充てている。


基本的状態

[建設当初のマチリヤダム] 高さ190フィートのマチリヤダムは1947年ベンチュラ郡治水局(現在のVCWPD)によって農業用貯水および限定的な治水を目的にして建設された。このダムは50年ごとの協定(1959~2009)により、現在、カシタス地域利水局が運営している。このコンクリート製アーチ式ダムは太平洋から16マイルの距離、マチリヤクリークとベンチュラ川の合流地点からちょうど半マイル上流に位置する。

ダムが原因の問題は20年を待たずに起こった。それらはダム背後にたまった大量の堆積物と水供給機能および計画当初予定されていた貯水力の大幅な消失である。

[貯水池の現状] 具体的には、ダム本体の老朽化、機能を果たさない魚道、および魚の遡上を阻む障害物全体的構造、ベンチュラ川とマチリヤクリークを結ぶ川辺の水生生物およ び野生生物の通路の喪失、ダムからベンチュラ川に運ばれる堆積物量の減少、その結果として起こるベンチュラ川下流域、河口の侵食、および砂の不足によるベ ンチュラ郡の海岸侵食である。

ダム背後にたまった堆積物は将来的に利用できるはずであった大量の貯水能力を急激に減少させた。

このダム背後の堆積物量(泥、砂、砂利、大小の丸石)は約600万立方ヤードと算定される。試算によれば現在ではダムの背後には500エーカーフィート(当初の貯水能力の7%)の浅い、小さな湖が残るのみである。

今後もこのまま堆積が続くとすればおよそ2020年までにこの湖も消失するだろう。最近では嵐の際にダム湖の水がダムを超える危険までも加わっている。

ダムを超える水によってダム湖水中に漂っていた細かい堆積物は運ばれるが、粗い堆積物はダムの後ろに残ったままになる。

およそ2040年までに貯水池は均衡条件に達し、総計900万立方ヤードの堆積物がダムにたまることになる。一旦これが起こってしまえば、ダムの上流の二次的な流域からの全堆積物が下流に運ばれることになる。

 

生態系に対する懸念

 

ベンチュラ川流域には多くの繊細な種やいくつかの絶滅危惧種などが存在しており、多種多様な固有の野生種にとって重要な川辺および湿地の形態を持つ生息地となっている。

マチリヤダムは過去55年間、水生生態系および野生生物に対して多くの弊害を与え続けた。ダムによって堰き止められた堆積物は下流の支流から産卵に必要な川底基板の維持に必要な瀬と淵の構造、および、 中州、副水路を形成するために必要な砂や砂利サイズの堆積物を奪った。

瀬や淵等の状態はサザンスチールヘッド、サウスウエスタンポンドタートル、アロヨヒキガエル、カリフォルニアレッドレッグカエルなどの多くの繊細な野生生物種を支える生息地の多様な豊かさを生み出していた。

しかしダムが上流流域の自然な流れを遮ったために、水の流れ、および生息地のダイナミズムが変わってしまった。貯水池に長く留まる間に貯水池の水は高温、貧酸素化、潜在的な高栄養による負荷の影響を受けて典型的な水質悪化を起こした。

そしてマチリヤダムに蓄積されたこれらの弊害は貯水池が完全に堆積物によって埋まってからも長い間、少なくとも100年間は下流の生態系に対して悪影響をもたらすであろう。

遡上マスであるサザンスチールヘッドはサンディエゴ南方に位置するカリフォルニア海岸流域によく見られる種であったが、過去150年間でここに戻ってくる成魚の数が劇的に減った。

この減少の主な理由は複数のダム、および河川の流れを人工的に変えたことにより、スチールヘッドの昔からの河川支流にある生息地域へアクセスできなくなったこと、また、農業および都市化に伴い、生息地の環境の質が悪化したことである。

1997年にはサザンスチールヘッドが連邦絶滅危惧種リスト入りした。ベンチュラ川水系は、一時はおよそ4000~5000匹のスチールヘッドの産卵を支えていた。

しかし最近の試算ではベンチュラ川水系のスチールヘッドの成魚の固体数は100以下である。マチリヤダム上流のスチールヘッド生息地は歴史的にベンチュラ川水系の中でも最も生産的な産卵および生育地であった。この残された主生息地の約50%もすでにダム建設により失われたと推測されている。

この研究は、マチリヤダムの撤去を評価、推奨するものであり、このダム撤去はベンチュラ川生態系およびスチールヘッド漁業の歴史的な再生の機会を提供している。

ダム撤去により、スチールヘッドとその他の水生生物(カリフォルニア州重要懸念種であるアヨロチャブを含む魚、および両生類)が約17.3マイルはなれた質の高い産卵、生育地へ再びアクセス出来ることになる。

魚道施設がこの規模のダムにとって実質的な解決策にはならないために、ダム撤去なくしては遡上路の再生はありえない。

ベンチュラ川流域のもうひとつの実質的な障害はマチリヤダムから下流へ2マイル以内にあるローブル取水ダム(開墾局が所有、CMWDに貸与)である。

このダムはベンチュラ川流域および周辺地域に表層水を供給する施設でベンチュラ川からカシタス湖へ導水している。また、この取水ダムはベンチュラ川下流域全体にわたってスチールヘッドの遡上、産卵、生育に影響を与えてきた。このダムにおける魚の回廊の再生はCMWDによって取り組まれており、魚梯が建設中で、2005年に完成予定である。

カシタススプリングス/フォスターパークでは水のくみ出し作業により地上水の流れが中断することがあるので、生物学的意見(NOAA2003)を受け入れて設定された新しい操業基準により、嵐の後の特定期間は、スチールヘッドの通過のための取水ダムからの放流を現在の20立方フィート/秒からおよそ50立方フィート/秒に増やすことになっている。

マチリヤダムはこの河川水系の河床の侵食も引き起こしている。河床の侵食が最も深刻で、現在の水路が深く掘り下げられた場所では、現在、氾濫原にある隣接の沖積堆積物が遺棄されている。

つまり100年に一度起きるような大洪水の流れも主水路の中に閉じ込められ、氾濫原にあふれない。

それにより活発な氾濫原の活動に大きく依存する土着の生息地は大きく影響を受け、多大なる変化を生じた。マチリヤダムによる川辺の堆積物供給および運搬に対する大きな影響の範囲はこのダムとサンアントニオクリーク間の約8.5リバーマイルにまで及ぶ。

この河川区間の堆積物の大部分はノースフォークマチリヤクリークから供給されている。このダムがなければ、おそらくマチリヤクリークがこれらの区間では最大の堆積物供給源となっていただろう。

マチリヤダム直下の下流部分では1971年以来、約4フィートもの侵食が起こっており、岩盤があるのでこれ以上の侵食は起こっていない。ローブル取水ダム下流の区間では、このダムに堆積物の滞留地が設置されているので10フィートまでの侵食で留まっている。

しかし、もしマチリヤダムが撤去されれば、この区間の侵食による状態悪化はそれほど深刻なものではなくなる。サンアントニオクリーク下流の2~5.5リバーマイル間(河口から計測して)では10フィートまでの侵食が起こっている。

これらの原因はカシタスダムとマチリヤダムの存在がもたらす堆積物不足、またサンアントニオクリーク流域の土砂遺棄地区や複数の橋による水路の制限などである。

ダム建設など人間活動の影響を受けて、地元の海岸線のほとんどが海岸侵食を問題としてとらえている。過去50年間でベンチュラ川河口の西に位置するエマウッド州海岸は約150フィートも侵食されており、年間に2~3フィートの割合で侵食が起こったことになる。

河口下の海岸線にあるサーファーズポイントはかっては砂浜であったが現在ではほとんどが小さな丸石で占められている。上部の砂浜海岸地帯の喪失はカリフオルニアトウゴロイワシの産卵地の消失を招き、また、連邦生存危機リストに載っているスノーウイプローバーは、その餌場、および繁殖地を失った。 [侵食された海岸の様子]

河口両側にある海岸砂丘の規模も侵食の予防的役割を持った海岸前線の喪失および波の浸食作用の結果年々縮小してきている。河口の両側にある海岸砂丘およびその生息地は、かつてカリフォルニア州重要懸念種であるシルバリーレッグレストカゲが生息していた場所であるが、その規模は縮小してきており、今のままでは完全に失われるだろう。

また、土着の河川生息地が外来種に奪われつつあることも、この流域の問題である。ジャイアント・リード(巨大葦・Arudo donax)は貯水池周辺のかなり多くの場所に生息する優勢植物種で、貯水池上流のマチリヤクリーク流域の生態系の一部を含む広い地域に生育地を広げている。

この植物は向かうところ敵なしで、土着植物の生育地を奪い、この地域の生息地の質を深刻な状態にまで下げている。このジャイアント・リードは野生動物の食物には全くならず、せいぜい鳥の巣作りおよび両生類の隠れ家/日よけにわずかに役立つのみである。

集中的な除去プログラムなくしては、ジャイアント・リードやその他の外来植物種によって、繊細種を支えるベンチュラ川の能力は減少してしまう。このような繊細種は土着種の柳、ハコヤナギ、およびその他の川辺の植物種にその生存を頼っており、その繊細種にはベルズビレオやサウスウエスタンウイローヒタキ等の定住および渡り鳥が含まれる。

嵐が起こると、このジャイアント・リードの種子を下流に押し流すことになるので、貯水池は種芽供給源となっている。マチリヤダムの下流域、ベンチュラ川の氾濫原にはジャイアント・リードの集団がコロニーを形成している。この状態が続けば、このコロニーはますます拡大し、川辺の生息地の価値は低下し、それに伴い、土着の生息地に依存してきた固有種も減少していくだろう。

水供給および水質に対する懸念
   ベンチュラ川の自然水流およびそれに関連した地表下の沖積地下水は、この流域における大規模事業のマチリヤダム、カシタスダム、ローブル取水ダム、フォスターパーク取水施設、およびその他の小規模な取水事業により影響を受けている。
   ベンチュラ川本流で取水される総量は年におよそ18000エーカーフィート(NOAA、2003)である。マチリヤダムは年平均590エーカー フィートの水をローブル取水ダムに供給している。この取水は、スチールヘッドが無事に遡上するために必要な河川水流の期間と水量に制限を与えることにな り、また流水中の生息地に対しマイナスの影響を与える。
   自然流水位が低くなる夏/秋の期間、魚や水生の生物は水が減ることにより孤立させられ、それにより捕食の危険にさらされ、質の悪い水に影響を受け、水がなくなれば乾燥した状態に置かれてしまう。
   排水処理施設などのように排水源が特定されたものから、農業・都市開発による水源が特定できないものまで、ベンチュラ川への放水は川の水質に影響を与えている。
   カリフォルニア地区水質管理委員会はベンチュラ川をカテゴリーⅠ流域(水質が損なわれた)に分類し、川の状態が分類303(b)に属すること、また、DDT,銅、銀、亜鉛、藻類(富栄養化)、ごみ、を含む汚染物質のためのTDMLスケジュールの優先性を承認した。

流れの状態

[5年に一度の規模の降雨によるダムの様子] マチリヤダムは大きな洪水時(10年周期で起こる規模の)の最高水位に対しては治水的役割をほとんど果たさないが、CMWDが冬の嵐の季節の前にダムの水位を下げることにより、頻繁に起こる中規模の嵐の影響を軽減することが出来る。

これに併せてローブル取水施設は貯水能力に限界があるが、最大500立方フィート/秒の水をカシタス湖に導水することができる。ピーク時の水流の減少はベンチュラ川のスチールヘッドおよびその生息地に深刻な悪影響を与える。(NOAA、2003)スチールヘッドはピーク時の水量によって入る川、遡上する上流を決める。遡上には自然の流れにおける障壁が緩やかになる高い流水位が役立つのである。ピーク時の水流は新しい産卵地を形成する堆積物だけでなく産卵地の砂利の上に敷き詰められる細かい堆積物も運んでくる。さらに、この水流は藻類を流し、一年草を含む、未定着植物の間引きを自然に行うのにも役立つ。その結果、すでに定着している多年生植物が成熟するために必要な土壌の栄養および水や繁茂するためのよりよい日陰の生息地を他の植物よりも獲得しやすくなる。

マチリヤダムを撤去すれば、このようなピーク時水位の減少を効果的に防ぐだろう。たとえ将来何のプロジェクトも実施せずに、結果的には同じような状態が起きるとしても、その恩恵を得るためには2040年まで待たなければならない。

代替案

 

明確になってきた問題点および可能性に対処するために、全ての構造物を使った手法、もしくは構造物を使わない手法が列挙されている。

これらの方法の中にはダム撤去に関する手法、ダム撤去しない手法、機械的な、もしくは自然の力による堆積物の移動、沈殿堆積物の安定化、堤防・橋の改築、現存する水供給施設の保護、レクリエーション、および外来種の管理が含まれる。

これらの方法が組み合わされ、複数の代替案として公式化され、評価、比較された。そして推奨プランの選定には選出基準が用いられた。

 計画の選定の結果、最終的には7つの代替案がそろった。6つの行動を伴った代替プランおよび、何もしない(No Action)というプランである。

この際、評価の基準に含まれているのは堆積物の沈殿および混濁率、洪水、浜辺の栄養状態、ダム現場の地形学的変化、生物学的・文化的資源、水供給、および大気環境・騒音・交通に与える影響である。

それぞれの代替案に共通する特徴はマチリヤダムの撤去である。

内容としては、遡上路の再生、マチリヤクリーク上流流域からの自然の水文学および堆積物運搬経路の再生、ダム背後に溜まった堆積物の管理、外来種・進入種の除去;特にダム貯水池周辺、流域上流、およびベンチュラ川下流区間におけるジャイアント・リードの駆除、土着でない捕食性種のダム湖およびダム直下の下流からの除去;特にラージマウスバス、サンフィッシュ、なまず、およびウシガエルなど。

さらに洪水および水供給による被害の緩和策などが含まれる。レクリエーション手段には遊歩道および関連施設が含まれている。

何もしない(No Action)代替案ではダムが今後50年間残ると仮定し、分析したものである。

ここでダムは安全的観点から観察されるが、施設の改修は全く必要ないと仮定している。300万立方ヤードの堆積物がこの先35年間に渡ってダム背後にたまり、その結果、2038年までにはその量は900万立方ヤードとなる。

現存している貯水池(湖)は2020年までに消滅するだろう。堆積物の下流域への輸送はダム貯水池水系が堆積物により完全に覆われたのち、再開されるだろうが、その後の堆積物の埋積作用により河床の高さがダム建設以前の状態に戻るまでには、100年間を必要とするだろう。

また、ローブル取水ダムにおける堆積物が増加したことにより下流域の取水事業は被害を受けるかもしれない。

そしてジャイアント・リード(Arudo donax)が引き続き土着種をうち負かしていくだろう。

カシタス市利水局はローブル取水ダム上部にある魚の遡上路を魚道の整備完了に伴って再生する予定であるが、スチールヘッドはそれでもマチリヤダムの上流に位置する主産卵地、および生育地である生息地へたどり着くことが出来ない。

また、マチリヤダム周辺には整備されたレクリエーションのための遊歩道は無いままであろう。

 

 代替案1  

全面的なダム撤去を1段階として行い、溜まった堆積物を機械的に除去する。ダム背後の堆積物のうち、売買できるものは(300万立方ヤード)は現場で加工され、砂利として売られる。現在の湖の底に溜まっている(210万立方ヤード)売買に適さない細かい粒の堆積物はダム撤去の前にハイウエイ150橋の近隣に位置する118エーカーの埋立地へスラリーされる。そして砂利加工の後残った細かい粒の堆積粒(77万立方ヤード)も同じ埋立地にトラックで運ばれる。川の流れを保ち、堆積物処理作業を保護するために、貯水池周辺の下流に向かって右側に沿って60フィートの幅の水路(底幅)が建設される予定である。この水路の底は、ダム建設以前の水路に類似するものとなり、魚にとって近づきやすい自然の勾配を持つように設計される。水路の下流に向かって左側は、側斜面に沿って水路の底から13フィート上から5フィート下までをソイルセメントで保護することになる。水路の容量としては、100年に一度規模の嵐にも対応するものとなる。現場の砂利で作られたソイルセメントは砂利売買作業が終了した後除去される。

 

代替案2a

完全なダム撤去を1段階として実施し、堆積物の一部を自然の河流作用により流す方法である。

現在貯水湖の底に溜まっている細かい堆積物(210万立方ヤード)は、ダム撤去の前に下流域のハイウエイ150橋に隣接する118エーカーの埋立地にスラリーされる。

そして残りの堆積物は嵐や自然の河流作用により侵食され、下流域に流される。

また、水流を保つために深さが10フィート以下の浅い試験的水路が、貯水湖周辺に作られる。

 

代替案2b

ダム撤去を1段階として実施し、堆積物を河川作用により自然運搬する方法である。

ダム背後の全ての堆積物は嵐や自然の河流作用により侵食され下流に流される。また、水流を保つために深さが10フィート以下の浅い試験的水路が、貯水湖周辺に作られる。

 

代替案3a

ダム撤去を複数の段階に分けて実施し、ダム背後の堆積物は河川作用による自然運搬に任せる方法である。

ダム撤去は2段階に分けて実施される。第1段階では湖の底に溜まった細かい堆積物(210万立方ヤード)をハイウエイ150橋に隣接する118エーカーの埋立地にスラリーした後、ダムの構造体を高度1000まで撤去する。また、水流を保つために深さが10フィート以下の浅い試験的水路が、貯水湖周辺に作られる。

第2段階として、貯水池の堆積物が自然河流作用により第一段階で残されたダムの高さと同じになった時に、残りのダムを撤去する。

 

代替案3b

ダム撤去を複数の段階に分けて実施し、ダム背後の堆積物は河川作用による自然運搬に任せる方法である。

ダム撤去は2段階に分けて実施される。第一段階ではダムは高度1030まで撤去される。

ダムの部分的撤去の際に掘削された全ての資材は貯水池上流に置かれる。

また、水流を保つために深さが10フィート以下の浅い試験的水路が、貯水湖周辺に作られる。第2段階として、貯水池の堆積物が自然河流作用により第一段階で残されたダムの高さと同じになった時に、残りのダムを撤去する。

 

代替案4a

1段階としてダムを完全に撤去し、ダム背後の堆積物の一部を長期間貯水湖流域に留める。現在貯水湖の底に溜まっている細かい堆積物(210万立方ヤード)は、ダム撤去の前に下流域のハイウエイ150橋に隣接する118エーカーの埋立地にスラリーされる。ダム建設以前の状態に戻すための整合作業の後、貯水池周辺において100フィートの底幅の水路がダム以前の高度(河床)まで掘削される。水路には捨石が並べられ、両側面を水路基底から11フィート上から下に5フィートまで保護されており、100年規模の洪水にも耐えられるように設計されている。掘削された資材は貯水湖内の保管地域に永久に積み上げられることになる。

 

代替案4b

1段階としてダムを完全に撤去し、ダム背後の堆積物の一部を貯水湖流域内に短期間保存する。

湖底に溜まった細かい堆積物は、ダム撤去に先立ち(210万立方ヤード)ハイウエイ150橋に隣接する118エーカーの埋立地にスラリーされる。

また、ダムの無かった状態と整合させながら、100フィートの底幅の水路がダム以前の高度まで戻るように貯水湖流域を通して掘削される。

貯水湖流域の下側半分の水路の側斜面はおよそ高さ7フィートのソイルセメントで覆われる。

護岸高は12500立方フィート/秒(10年に一度起こる規模の嵐)を越える流れにはあふれるレベルである。

掘削された資材は貯水湖流域の保管地域に積み上げられる。ソイルセメントの護岸は、堆積物をため込んでいる貯水湖流域の一部や、近接する細かい粒子を含む掘削された堆積物が置かれている場所をしっかり保護する。

全てのソイルセメントは溜まった堆積物が十分に侵食されたのち、撤去される。この撤去は段階的に行なわれる。

 

代替案の比較および評価

マチリヤダムを撤去すれば、ベンチュラ川の現在の浸食的傾向は逆転して堆積が起こるようになり、最後にはバランスの取れた状態(平衡状態)が起こってくる。

水路や川底材質の特徴としては、その堆積物により川辺の形態が再生され、よりダムの無かった状態へと近づいていく。平衡状態になるまでにかかる時間は代替案ごとに異なり、代替案1と4aは平衡状態に到達するのに50年かかる。

一方、代替案2a,2b,3a,3b,は10年以内、代替案4bでおよそ20年以内である。

将来ダム撤去プロジェクトを行なわない場合には、(何もしない代替案NO action )平衡状態に到達するのに100年かかる。

アクションを伴う代替案の選ばれ方によっては、3?5リバーマイルの間で、緩やかではあるが侵食傾向は続くようである。この侵食の主な原因は橋、カシタスダム、およびサンアントニオクリーク流域の遺棄地区の存在がもたらす水路の狭窄である。

堆積物が運搬されることにより海岸に栄養物が運ばれるという恩恵があるが、アクションを伴う代替案が実施されれば、"何もしない"選択に比べてこの兆候はすぐに起こってくる。

この場合にかかる時間枠としては、川辺の均衡を取り戻すのにかかる時間と近いものがある。

50年の間に、砂、砂利、小さな丸石サイズの堆積物が運搬される量は"何もしない"選択の場合のおよそ1/3増えることになるであろう。

海岸作用および栄養化の管理をしている海岸侵食局(BEACON)は、1立方ヤードの砂は海岸ではおよそ1平方フットの乾燥砂に匹敵すると見積もっている。

堆積物が海岸線に多く運ばれるために起こる弊害の中には、増量された細かい堆積物が土着の甲殻類に短期間の間ではあるが被害を与えることが含まれる。また、ベンチュラ川から運ばれる堆積物が長い砂浜に渡って増加することにより、将来的にベンチュラとチャンネル諸島港での浚渫が増加する可能性もある。

"何もしない"選択と比べてみれば、細かい粒子や砂の堆積物の増加量は比較的小さいので、この研究にとっての弊害は大きいとは見なされていない。

溜まっていた堆積物を下流へ放流するために起こる影響としては、例えば川辺の堆積物や混濁率の増加があるが、これは川辺のコミュニティー、野生生物、生息地に短期間影響を与えるのみである。

時がたてばこの水系は再生されていくので、この影響は全体的に見ればむしろ有益なものとなる。

川をダム以前の状態に戻すためのプロセスはダムの建設以降、河川に沿って建設されてきた公共設備が洪水に見舞われる危険を増やすことになるだろう。

結果として治水の改善が必要となる。ダム背後に貯まった堆積物を下流に流すことになるため、代替案2a,2b,3a,3b,4bは代替案1,4aよりもより治水努力が(より高いレベルで)必要となるだろう。

いずれにしても、これらの案のもとでは、マチリヤ温泉地所の買収、カミノシエロの建物の買収と撤去、カミノシエロ橋の撤去と移転、橋の現在位置の水路幅の修復、その流域での水路拡張およびサンタアナ橋の延長が想定されている。

治水の改善策の中には新しい堤防・洪水壁の建設および既存の設備の高さを増すことなどが含まれている。

その対象となる地点にはメイナーズオークス、(低レベルの治水代替案で現堤防頂上から最大3フィートまで、高レベルでは5フィート)、ライブオークエーカーズ(低レベルで現在の堤防頂上から最大2フィート、高レベルで6フィート)、カシタススプリングス(低レベルで現堤防の頂上から最大2.5フィート、高レベルで5フィート)がある。

メイナーズオークスの堤防および洪水壁は新しくなるだろう。これらの堤防建設用の埋め立て資材はマチリヤダムの貯水湖から採取されたものを使うと想定する。

ローブル取水ダム、およびフォレストパークでは、堆積物(粗い/細かい両方)が増加することにより起こる水供給への被害に対していくつかの緩和策が必要である。ローブル取水施設への増加した堆積物を下流域に流すための堆積物のバイパス(4つの放射状ゲート)が施設内に建設されるだろう。

これはすべてのアクション代替案に共通して必要である。放射状ゲートのシステムによって取水作業は幅広い河川水流に対応できるようになる。また、現存する堰(材木の函)構造にもさらに改良が必要となるだろう。

2つの代替案(2b,3b)においては、たとえ堆積物運搬のための高い流れのあるバイパスがあっても、最初の数年間は(渇水期間ではより長い可能性がある)細かい堆積物が取水水路の魚網を詰まらせるので、季節毎のメンテナンスとしての清掃が行なわれる間は、施設の操業を停止する等相当な影響が出ることになる。

また、これらの代替案では、カシタス湖の安全水量の遺失分を補充するために外部から水を購買する必要がある。

代替案2aと3aでは、カシタス湖の混濁が水質に関する問題を起こす事が予想され、それには藻類の開花時期の延長や水質浄化作業を増加するなどが含まれる。

また、影響のレベルや期間がはっきりしないこと、特に渇水期間のシナリオが不鮮明なため、(低流でも混濁した荷重を運搬する)細かい砂をカシタス湖に運ぶ前に沈殿させるための流域が含まれることになるだろう。

 代替案4bでは、細かい堆積物を含む貯水域の一部の水路が保護されているおかげで(ソイルセメントの護岸)ローブル取水ダムの与える混濁率の影響は代替案2a,あるいは3aのそれに比べてはるかに低いと思われる。

ソイルセメントの護岸により細かい土壌が保護され、約10年に一度起こる規模以下の大水ならば侵食は防ぐことができる。

だから、このレベルでの大水時における混濁率は現行の状態に近いであろう。たとえ渇水状態であろうと、混濁率は悪化しない。10年に一度のレベルを超える大水時には、水位はソイルセメントの護岸を超え、流れがより細かい土壌に到達し、それが侵食の原因となるだろう。

混濁率の増加は一定の限られた期間に起こり、その割合も自然に起こる混濁率の幅に収まるだろう。また、最終段階の護岸の除去により、混濁率は一時的におそらくより高い限度まで上がるだろう。

護岸撤去の時間割計画は川の監視および適合性管理方法に照らして作られるが、カシタス湖の水位が通常より低い状態で進行する渇水期に同時に行なわれてはならない。

代替案4bでは、地域的に望ましい改善策の一部として、堆積物沈殿用の流域が含まれる。

フォレストパークでは、混濁率が最大限界値の10NTUを超えたとき、地上水の取水作用の中断のために不足した水量を補うため、追加的に2つの井戸が建設されるだろう。

これらの井戸は、代替案2a,2b,3a,3b,4bにのみ必要となる。また、スラリー処理地区の一つは侵食の影響を受けやすく、微粒子も喪失されるため、代替案1および4にも井戸が含まれる。

代替案1は、大がかりな資材売買操業のためのトラック輸送という点で、地域にはもっとも大きな影響を与える。

推奨プランの選択

 

NERプラン

下の表はアクション代替案それぞれの恩恵と費用を示している。

代替案における恩恵は非貨幣用語であらわされている。(生息地ユニット・単位)この研究の場合、生態系再生の恩恵は修正HEP分析を使って行なわれており、平均年間生息地ユニットが(AAHU)50年分計算されている。

代替案4bはHEP分析によると基本状態(アクションプランなし代替案)と比較して全体で731AAHU増加することになり最大の純利益をもたらす。

しかしながら代替案2a,2b、3a、3bもAAHU678増加し、それぞれが近い値で2位となる。

そして次位の代替案1(609AAHU)との間には大きな差があり、それから4a(554AAHU)が続く。

下の表にある代替案の費用には、地域的に望まれるプランのもとでのレクリエーション手段および改善案は含まれていない。

代替案4bはAAHUあたりの平均年間コストがもっとも低い。費用対効果の観点から見ると、より低い費用で同じ効果を引き出す代替案が他に無いとするならば、その代替案は費用対効果が高いといえる。それゆえ、4bがもっとも費用対効果が高い代替案となる。

また、増分費用分析は必要ない。なぜなら、"何もしない"選択以外には比較すべきレベルにも変化がなく、他に選択するレベルも無いからである。そこで代替案4bがNERプランに該当するとして推奨する。

 

地域的に望ましいプラン

合意決定の過程で、プラン・フォーミュレーショングループの出資者や多くの関係者は代替案4bを選択すべきプランであると選定した。そしてさらに、NERプランに堆積物沈殿地帯の設置が加えられることになった。

この沈殿地帯は、出資者が全面的に負担する費用の関連項目として見なされる。

 

推奨プラン

パブリック・ドラフト・レポートの完成以以降、技術的見直しを反映して、コストは刷新された。特に、メイナーズオークス、ライブオーク、およびカシタススプリングスの堤防費用の見積もりはその埋め立て土砂の量を再検討した結果、修正された。

しかし堤防費用に増額があっても推薦プランの選択に影響は無かった。下記の表は目的選択において現在まだ有効である。

堆積物の沈殿地帯の設置を加えた代替案4bが推奨プランとして選択された。プロジェクト総費用は12億3770万ドルである。

これはレクリエーション費用(100万ドル)とローブル取水施設の改善項目(沈殿地帯)費用(570万ドル)を含む。再生される生息地面積は全部で2814エーカーとなる。

マチリヤダム生態系再生推奨プランは流域全体で実施されるもので、絶滅危惧種を含むさまざまな土着種を支えている生息地と生態系の機能を作り出す重要な物理的自然のプロセスを再生する。

このプランの恩恵には、近年減少しているサザンスチールヘッドが昔からの環境の良い産卵の場と生息地へアクセスできるようになることが含まれる。

 

<お知らせ>

愛知県長良川河口堰最適運用検討委員会がパンフレットを発行しました。

 


 
 
 
 
 
『166 キロの清流を取り戻すために まずは長良川河口堰の「プチ開門」を実現しましょう

 http://www.pref.aichi.jp/soshiki/tochimizu/nagara-sasshi.html 愛知県のHPに内容が掲載されています
★冊子を希望する場合は上記のアドレスから

申込が可能です。

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会報Vol.10をHPに掲載しましたのでご覧下さい。

 

オーストリアの統合治水、現場報告

ヨーロッパ河川再生会議報告