5 ルスタードルフの洪水対策

【サイドアーム再接続の基本情報】

 残存する昔のサイドアーム(支流あるいは派川のこと)をドナウ川に再接続する計画は、EUのライフプロジェクト*として、2003年にビアドナウ社(ドナウ氾濫原国立公園の維持管理会社)が決定した。その目的は、ドナウ川の水位がその河床の深さまで低下する最低レベルとなる期間に、維持流量を最大限確保するものであった。ルスタードルフのサイドアーム(派川)は、長さ約3㎞、ドナウ川の右岸に位置する。<HYDRO社資料より>

ここはEUのライフ(LIFE)プロジェクトのひとつで、サイドアーム(支流あるいは派川のこと)を本流に再接続するプロジェクトの現場です。ここは、かつてドナウ川から枝分かれしてまた本流に戻るサイドアーム(派川)でしたが、その後切り離され、ずっと水がない状態でした。水路の長さは約3㎞あります。今は、ドナウ川と再接続したので、再び水が流れるようになったのです。

私たちが今いるこの橋の向こう(サイドアームの左岸側)は土砂堆積でできた島(洲)になっていて、畑として利用されています。長らく水が入って来なかったので、堤防はあまりしっかりしていませんでしたが、左岸は人が住まない島なので侵食されてもかまわないということでそのままにし、右岸は植栽をして護岸を施しました。今見ると、今年6月の洪水で、両岸とも侵食されていますが、ふだんはもう少し草におおわれています。島の側は農地で、建物を建てることもできませんので、洪水対策はとられません。

これまでにドナウ川のサイドアームを再生した例は3例ありますが、ここが最初の事例です。当初、政府の水管理部局の担当者は、このプロジェクトでどれだけの治水効果があるか懐疑的でしたが、思った以上の効果があることがわかり、今では納得して喜んでいます。本流の船舶の航行に必要な流量は、最低毎秒800㎥ですが、このサイドアームに流れるのが毎秒15㎥くらいなので、それほど影響はありません。このもう少し先に、流量が毎秒1020㎥のサイドアームの再生現場がありますが、そこはここほどの規模がありません。

注 EUのライフプロジェクト* EUの環境政策の実施や改善に貢献するような先験的あるいは模範的なプロジェクトに対しEUは、1992年から財政的な助成制度であるライフプログラム(The LIFE programme)を導入しており、これによって実施されたプロジェクトのこと。

 

サイドアームを再接続した右岸がルスタードルフ村の居住地になっています。この村は、モバイルシステムを導入しました。村はワインやアンズを栽培し、サイクリングステーションや民宿などがある観光地なので、治水を他のさまざまな機能と統合させる努力が非常に大切です。洪水対策をその周辺の景観や価値と調和させることです。よく見ると、個人所有の土地の植栽の陰に洪水防護壁が隠れています。あそこにはワイン葡萄畑がありますが、あそこが堤防の最大の高さになります。

これが今年6月の洪水時の写真です。洪水の水位がここまでで、モバイル防護壁がこれ。この写真がここです。そうです、この村はモバイルシステムで完全に守られたということなんです。見てください。壁の連続性、美しいカーブ、ここの少し下がっているところは、洪水が起きたらここにモバイル壁を嵌めこみ、入口を閉鎖します。ほかのモバイル壁は、コンクリート壁の上に設置して完全にゲートを閉めます。最終的な終点はまだ先にあって、そこまで全部つながっている。ゲートを閉めると、連続的な堤防となって守るべきところはまるごと守らることになります。すべてが適切に調和していて、どこを見ても突出したところがないでしょう。

コンクリート壁は、地下912mまで深く入れてあり、上に出ている部分の高さは3mくらいです。内水処理のための配水ポンプは、直径1mのパイプが地下数mの深さに埋設されたものと接続されています。ポンプ場はもう少し上のほうにあります。ここは首長が中心になって、早い時期にこのシステムの導入を決定しました。

<お知らせ>

愛知県長良川河口堰最適運用検討委員会がパンフレットを発行しました。

 


 
 
 
 
 
『166 キロの清流を取り戻すために まずは長良川河口堰の「プチ開門」を実現しましょう

 http://www.pref.aichi.jp/soshiki/tochimizu/nagara-sasshi.html 愛知県のHPに内容が掲載されています
★冊子を希望する場合は上記のアドレスから

申込が可能です。

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会報Vol.10をHPに掲載しましたのでご覧下さい。

 

オーストリアの統合治水、現場報告

ヨーロッパ河川再生会議報告