4 ハルターバッハ(Halterbach)農地遊水地

ここは牧草地ですが大きな窪みになっていて、渓流の洪水を貯留する遊水地になっています。100,000㎥の総貯留量があり、洪水のときは毎秒35㎥の流量をここに貯めて流量のピークカットをすることができます。下流にあるオベルベルゲン(Oberbergern)村を守る治水対策として7年前に完成したものです。毎秒35㎥というのはかなり大きな治水効果があります。

遊水地の入り口のほうにある植物で囲まれたこの小さな池は沈砂地です。横を流れているこの小川は、主要な渓谷の支流にあたり、今は遊水地の縁のあたりをぐるりと貫通して流れています。今、小川の水が流れ出て行っているほうに見える排出口が、洪水のときに機能します。排水口から堤防の向こうの放流口までの排水溝は長方形のような形状で長さは2030mあります。その河床は半自然状態で、その仕組みが下流に排出してはいけないものを濾し取るようになっています。魚は行き来できるようチューブが付けてあります。この排水口は下流への排水量を制限し、最大でも毎秒22㎥に抑えています。下流の村の治水対策として受け入れられる水量です。それ以上の水量は、この遊水地に溢れて溜まってくるわけです。

堤防の反対側(下流側)も見てみましょう。排水の越流口(spill away)は急傾斜になっていますが、この設備によって水の勢い(流速)を殺して、安全に放流します。ここでいったん水を止めて、ブロック壁で流速を落とすのです。重要なことは、洪水をどのように貯留するかで、人工的な構造物を極力小さくして自然の景観を保ちつつ貯留力を高めることが重要です。その方法として、渓流の河道をできるだけ維持することで魚が行き来できる流れに変更を加えない、その範囲内で構造物を設計すること。というのも、1年のうちたとえば363日間は川は平穏に流れていて、あとの1日か2日だけが大雨による洪水が村まで達する。そのうちのいくらかを阻止すればよいわけです。要するに、大きすぎる流量分を貯留できて、さらに堤防を乗り越えるようなことがあったとしても、年に12日間のピーク流量をここで留めて抑えることができれば、治水上の管理はぐっと楽になるのです。川の流れそのものを変える必要はないのです。

この遊水地は完成以来、これまでに使われてきていますが、遊水地が満杯になったことはなく、最大のときで半分くらいまでです。今年6月のドナウ洪水のときはドナウ川の西岸の支流では大きな洪水が起りましたが、ここはだいじょうぶでした。ドナウ川の洪水は基本的に、ドイツ南部、アルプスのほうでの大雨が原因です。ここでの対策はそれとは異なり、局地的な大雨に対応するもので、数日間続く降雨とか雪解けによる洪水に備えての施設です。この渓流の集水域はだいたい20km2です。しかし、非常に大きなドナウ川の集水域としてみると、北部アルプス地方で洪水が起きた場合にはつねにこの地方まで影響が及びます。

ドナウ川の治水ということで言うと、この支流だけでなく、集水域全体で対策をとります。ほかの支流でもそれぞれに小規模な施設を造っていて、こういった支流のすべてでこのような対策を行うというのが、集水域管理の考え方、手法です。そのさいの問題は土地所有者の理解が得られるかどうかで、土地所有者の許可がないかぎりできないことです。この遊水地は個人所有の農地で、政府が買ったのはほんの少し、あとは補償という形をとっています。土地全部を買い上げる必要はないわけです。5年~10年ごとに洪水が起こるような土地の所有者は、遊水地にして補償を受ける対象としてなりやすい。ここは今も牧草地としても使われています。もちろん、利用制限は受けますが。

こうして景観そのものは変わらず、堤防以外は依然として牧草におおわれ、施設も最小限の物しか使わない。そのぶん費用は高くなく、生態系へのダメージも比較的小さく抑えられる。堤防部分は政府が買い上げてつくったが、土地所有者は牧草地を維持していられる。こういう考え方の貯水池があちこちにあります。本流の後背地の小さい村々を守るやり方は、ドナウ本流の沿岸を守るやり方とは違って、非常に大きな洪水に対応するというよりは、局所的な豪雨に対応するものです。しかし、大河川の大集域で降る雨による大洪水は、こういった小さな集水域の洪水ピークカットを積み重ねることで全体として流量を減らして貢献することになるわけです。どの支流、どの渓流がどれくらいのリスクがあるかは、もちろん評価して優先順位を決めています。政府がその計算モデルをつくり、コンサル会社と契約して計算してもらっています。

ここは、おそらく3年に1度くらいの確率の大雨に対応させています。もちろん、頻繁に再評価しなければなりませんが。事業を行うには正当性が必要なので、統計をとる必要があります。場所ごとに特徴があるので、どこでも同じように何年に1度レベルと決まっているわけではないのです。ここの事業総額は100万~200万ユーロ(だいたい13,000万円)です。

 

<お知らせ>

愛知県長良川河口堰最適運用検討委員会がパンフレットを発行しました。

 


 
 
 
 
 
『166 キロの清流を取り戻すために まずは長良川河口堰の「プチ開門」を実現しましょう

 http://www.pref.aichi.jp/soshiki/tochimizu/nagara-sasshi.html 愛知県のHPに内容が掲載されています
★冊子を希望する場合は上記のアドレスから

申込が可能です。

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会報Vol.10をHPに掲載しましたのでご覧下さい。

 

オーストリアの統合治水、現場報告

ヨーロッパ河川再生会議報告