アメリカのダムに新たな潮流

(米国・ワシントンポスト紙の記事をRPNで翻訳したものをご紹介します)

2011年9月20 日 ワシントンポスト

 ワシントン:ジュリエット・エイルペイン

 

 アメリカの歴史上、最大規模のダム撤去が現在、ワシントンにある108フィートのエルワ川ダムで行われている。この記念すべき撤去作業はこの構造物の終焉のみならず、アメリカの広範囲にわたる河川管理の最新の方向性を示している。

 

 老朽化するインフラと漁獲量の減少に直面し、地域社会は主要な水路においてダムで制御するよりその枷を外した方がより経済的利益をもたらすであろうダムを、国中で撤去しようとしている。

 

 「昔は急進的だと思われたことが、今では主流なのだ」と、アメリカンリバーズのボブ・アービン理事長は語る。彼のグループは環境を理由に掲げてダム撤去を推進している。「これらすべてのダム撤去は、自然が自らいかに再生を果たすかの実験であり、エルワダムはその最大の例だ」と彼は述べた。

 

 ダム撤去のスピードは増しており、20062010年にかけて241基のダムが撤去され、それ以前の5年間と比較するとその数は40%増加した。撤去されたダムの多くは東部、または中西部のもので、これらは20世紀の変動期には、繊維工場や製紙工場など、あらゆる施設に動力を供給していた。 

 

 アメリカ先住民族や環境運動家たちの熱心な訴訟活動は、これらいくつかのダムが撤去されるよう連邦政府当局者を動かした。このような運動がなければ撤去は無かっただろう。これらのダムが一番影響を与える太平洋岸北西部のような地域においては、これは政治的闘争にまで発展したが、その後、歴史的な和解に発展した。

 

 「エルワ川の再生は河川修復の新しい時代を記念するものだ。我々の川と、川に依存する地域を持続可能にするための事業に対し、地域社会より幅広い支持があった」とケン・サラザー内務長官は彼の声明の中で述べた。

 

 河川の自然の流れを再生することによる経済効果の試算は様々ではあるが、短期的には建設雇用を生み、実質的に減衰していた商業漁業を復活させる。また、釣りやラフト、カヤックなどを楽しむ旅行者も呼び込む。連邦当局者の試算によると、32500万ドルをかけた2年半のエルワ川再生事業の期間中に少なくとも760種の仕事が生まれ、事業終了後にはレクリエーション、旅行業など446種の通年の仕事が生み出されるとしている。

 

 このような動きが太平洋岸北西部の主要河川での大型ダム撤去を押し進めたのであるが、この地域では2009年時点で水力発電が電力供の70%を占めていたことにより、ドック・ヘイスティングス氏(共和党・ワシントン州)米下院天然資源委員会議長のような影響力のある政治家たちの批判の的となっている。ヘイスティングス氏はダムの撤去作業の資金調達を阻止しようとし、また前アメリカンリバーズ代表のレベッカ・ワドラー氏をオバマ大統領が魚類・野生生物・公園担当内務省次官補に任命しようとした時もそれを阻止しようとした。

 

 「私はダム撤去に関してとても懐疑的なだけです」ヘイスティングス氏は、「ダムは電力の供給だけでなく、灌漑、レクリエーション、交通にも貢献している」とインタビューで述べている。

 

 ダムはかつて国のエネルギー供給に多大な役割を果たし、1940年にはアメリカの電力の40%を提供していた。しかし現在ではダムによる電力供給量は全体の710%でしかなく、アメリカ国内のダムのうち、発電能力を誇れるのはわずか3%に過ぎない。

 

 エルワ川にある2基のダムは、平均的な石炭火力発電所が500メガワット発電するのに比べ、19メガワットという控え目な数値の発電量である。

 

 リンダ・チャーチ・シオッチ米国水力発電協会専務理事は、その低炭素排出量により、水力発電は理想的なエネルギー源であると述べた。水力発電産業会はダムの改良や無動力ダムの改造、および波や潮力エネルギー等の技術革新によって1520年間で66%の発電能力の増加を望んでいる。

 

 「アメリカには水力で再生可能発電を増大させるという、とてつもないチャンスがある」とシオッチ氏は述べている。

 

 だが一方で、米国中の州や自治体が有用期間を過ぎたダムの対処に苦慮している。米国内に80,000基あるダムのほとんどが50年以上前に建設されているからだ。

 

 デューク大学河川科学政策教授のマーチン・ドイル氏は、アメリカにある85%のダムは2020年までにその操業可能な年数を終了すると見積もっている。

 

 連邦エネルギー規制委員会による水力発電ダム認可期間は50年で、延長可能な期間は3550年である。

 

 ダム撤去の決定はそれぞれの事情によって異なり、地域の法規、訴訟、資金調達ができるかなどの要因によって左右される。ペンシルバニア州は米国内で最も多い186基のダムを撤去している。その主な理由はダムを管理する「釣りボート委員会」が現行法のもとでダム所有者にダムの撤去を迫り、この事業を後押しするために州の資金を調達したからである。

 

 マサチューセッツ州魚類および猟鳥獣部門の生態系再生課長のティム・ピューリントン氏によると、彼の州では撤去候補となるダムを決定するために、およそ3000基のダムを評価調査した。

 

 「再生から得られる便益の総量という観点から見れば、ダム撤去は一つ行うことで、最も出費に見合う価値がもたらされるものの一つである」とピューリントン氏は述べた。さらに彼は、彼の課には30の撤去可能なダムプロジェクトがあるが、解体資金がないと述べている。

 

 ダム撤去は生態系的なメリットだけでなく、人々にも大きな利益をもたらした場合があった。ピューリントン氏の課とそのパートナーはマサチューセッツ州、クラークスバーグのブリッジスビルダム撤去に今年65万ドルを支出したが、この予算は規定のダム改修にかかる費用よりも10万ドル少なかった。またこのダムは撤去前には河川の水位を上げていたため、嵐の際にはその水位が堤防を越えていた。「先月、ハリケーン・アイリーンに町が襲われた時に、町は洪水から逃れる事ができたが、それはダムが無かったからだ」と彼は述べている。

 

 メリーランド州の当局者は環境保護団体、連邦当局者と共にバルティモア港に流れるパタプスコ川の4基のダムのうち少なくとも3基を撤去しようと取り組んでいる。メリーランド州当局は、産卵のために老朽化したダムを越えて上流に遡上しなければならないシャッド、ニシン、ウナギのための魚道を過去何年間も試してきたが、それはほとんど成功しなかった。去年、メリーランド州当局は2基のダムを取り壊すため、連邦資金330万ドルを使った。そして現在は、下流にあって1900年代初頭にわずか数年間発電しただけのブロエデダムの撤去を望んでいる。

 

 その他のダム撤去プログラムではさらに議論が高まっている。ヘイスティング氏は、10月下旬に行われる予定の、ワシントン南西部、ホワイトサーモン川に架かるパシフィコープ所有の125フィートのコンディットダム撤去により、水運に影響が出るとして連邦政府の資金投入の阻止に動いている。彼は、「納税者はこの事業には一銭も払うべきではない」と主張する。複数の環境団体はまだスネーク川下流の4基のダム撤去訴訟で身動きが取れない状態である。まさに彼らのその運動が、ダムによって危機にさらされたサケやスチールヘッドの回復のためにダム撤去を押し進めてきたのだが、そのダム撤去は1100メガワットの発電能力を奪うことになる。

 

 ロワ・エルワ・ワララム族はエルワダムとその上流にある210フィートのグラインズキャニオンダムを巡る闘争を何年間も続けた。一週間にわたるこれらダムの撤去式典にこの部族は参加していた。部族の河川再生部長であるロバート・エロフソン氏は、「我が部族はかつてこの地域に栄えていた魚とのつながりが大変緊密であり、サケに人々と同様の地位を与えていたため、サケの民と呼ばれていた」と述べた。

 

 そのほとんどがワシントン州のオリンピック国立公園内に位置するエルワ川は、野生のサケの産卵数を40万から3000に減らしたコンクリートの構造物以外は手つかずの状態にある。サケ種のうち3種類、チヌーク、スチールヘッド、ブルトラウトがこの川の固有種であり、絶滅危惧種法の下での絶滅危惧種リストに載っている。

 

 エルワダムから1時間のポート・タウンゼンドで夫と共に商業漁船を操業するエイミー・グロンディンさんは、こう述べている。「ダムを撤去すれば、究極的にはより多くのサケが戻って来る。それは私にもその他の人たちにとってもより多くを漁獲できるという事。私は現地まで1時間かかるけど、1時間なんてサケを思えば何でもないわ」と。

 

 エルワプロジェクトマネージャーのブライアン・ウインター氏は、この川が自然の状態に戻るのに2530年かかるだろうと試算している。彼の予測によると、ひとたび自然の状態に戻れば、数10万匹のサケがこの川を上り、川の堤防周辺の木々の成長を促し、ピュージェットサウンドやその他でオルカの遊泳を見られるような状態を維持できるだろうとしている。「我々は文字通り、山から海までの生態系を再生しているのだ」と彼は語った。

 

翻訳:青山 己織

 

 

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